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第27話 その妖精もどき、まだヤル気ですか?

last update publish date: 2026-08-03 15:30:50

「ケヴィン・セギュル様は嫌がる私の腕を強引に掴んで無体を働こうとなさったのですわ」

ああ、とウェルシェは美しい顔を曇らせ嘆き声を上げた。それに釣られて周囲の夫人達も痛ましそうに眉をひそめる。

「ですが、エーリック様がケヴィン・セギュル様の手を払い除け敢然と立ち向かってくださいました」

一転してウェルシェはうっとり陶酔するように頬を染めた。まるで恋する乙女のようだ。ここにカミラがいれば胡乱げな目を向けたに違いない。何の三文芝居ですかと問いそうだ。

「まあ素敵!」

「絶世の美少女を巡って男の子達が争うのも尊いわ」

「若いっていいわねぇ」

夫人達は純真無垢な美少女の擬態を見破れず、若い子達の恋物語に黄色い悲鳴を上げて喜んだ。ただ、その中でオルメリアだけが周りに同調せず、ウェルシェを観察するようにじっと見つめていた。

(セギュル夫人を黙らせてくれたのは助かるんだけど……)

ケイトの勘違いによるマウント取りはオルメリアも辟易していた。だから、ウェルシェが彼女をやり込めてくれたのには胸がすく思いである。

他の夫人達もケイトを煙たがっていたから同じ思いなのだろう。

だからこそ、天然なウェルシェがいけ好かないケイトに大打撃を与えたのを手放しで喜んでいるのだ。もっとも本当は天然ではなく演技なのだが。

ウェルシェの擬態をオルメリアは見破っていたし、被害がケイトにだけ限定されるなら問題はないと思っている。

(だけど、この子はそれで済ませてはくれないわよね)

オルメリアは気がついていた――ウェルシェが語ったケヴィンの話が、国王から聞かされたオーウェンの直談判と内容が同じであると。

(オーウェンから『横恋慕に加担するな』とか『真実の愛を尊重しろ』だとか訳の分からない苦情を捲し立てられたと、陛下あの人から聞かされた時は耳を疑ったのだけれど……)

息子は何を勘違いしているのかとオルメリアは首を傾げた。

もともと、この婚姻はオーウェンの立太子のためであるし、ウェルシェもエーリックもこの婚約に納得している。

だが、オーウェンはエーリックのグロラッハ家への婿入りの意義を理解していなかったらしい。

(ケヴィンの暴走にオーウェンも絡んでいると見て間違いなさそうね)

オルメリアはウェルシェがかなりの腹黒だと既に確信していた。恐らくウェルシェはオーウェンについても言及するだろうとオルメリアは身構えた。

「ですが、そこにオーウェン殿下が割って入って来られて……」

(やっぱり)

予想通りの展開にオルメリアは暗澹たる気持ちになる。

「私がいくらエーリック様と想い合っているのだと説明しても聞いてくださらず、私達の仲を引き裂こうとなさったのです。それで……」

ヨヨヨと泣き真似をしながらウェルシェは学園でオーウェンが仕出かした詳細を語ると夫人達から同情の声もちらほらと聞こえて来た。

「まあ! なんておいたわしい」

「国王陛下にまで直談判されると宣言されるなんて」

「さぞ心細かったでしょう」

実際、これについてオーウェンは自分達のところへ来て公言しているので誤魔化せない。

(ここは素直にオーウェンの非を認め、グロラッハ家へ幾許いくばくか権益を与えて手打ちに持ち込みましょう)

だが、彼女も一国の王妃である。既に対応策は考えていた。

「オーウェンが勝手な思い込みでエーリックやあなたに不安を与えてしまった事、一人の母としてまた一国の王妃として誠に遺憾です」

恐らくウェルシェが望んでいるのも何かしらの見返りだろうと、····オルメリアは彼女の性質を見抜いていた。

「二人には迷惑をかけましたね。オーウェンには私から厳しく申し聞かせ、この件は責任をもって収めます」

「ありがとうございます」

あくまで『ある程度』であったが――

「ですが、果たしてオーウェン殿下が聞き分けてくださるか……これからも学園でケヴィン・セギュル様と一緒に難癖をつけて来るのではと不安で……」

「それはどういう意味ですか?」

表面上は美しい微笑みアルカイックスマイルのままだが、オルメリアは内心では少しむっとしていた。

それはそうだろう。自分の息子を独善的な者と詰られたのだから。

だが――

「実は……オーウェン殿下は学園でとある男爵令嬢を侍らせているのですが……」

「……」

痛いところを突かれたとオルメリアは心の中で頭を抱えた。オルメリアは浮気についてオーウェンを窘めた事があった。だが、一向に改善されていないのである。

「それに対して諫言なさった側近を排斥なさったのです」

「何ですって!?」

しかも、寝耳に水の追撃まで。

ウェルシェに一片の情け無し!

「オーウェンは誰を退けたのです?」

オルメリアはシキン夫人をチラリと見て嫌な予感に襲われた。

(もっとも最悪なケースはジョウジ・シキンだけど……)

事ここに至って、ウェルシェがシキン夫人を連れて来た意味を悟った。おそらく、その最悪のケースなのだろうと――だが、事実はオルメリアの予想より遥か上空を行っていた。

「全員です」

「なっ!?」

オルメリア絶句!

もはや言葉もない。

「自分の行いを咎める者を排斥した今のオーウェン殿下をお止めできる方は学園にもはやおりません」

だが、魔王の如きウェルシェに容赦は無い。

「さらには、浮気相手の男爵令嬢が薦めた見目の良い令息ばかりを近くに侍らせ学園内で我が世の春を謳歌されておられるのです」

情け容赦のないウェルシェの追い討ちに、オルメリアはくらりと眩暈を覚えた。

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